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土壌の大島|SOIL

長谷川式土壌調査器具の開発

土壌の大島の画像現在、造園緑化にかかわる技術者には植栽基盤という用語が広く知られるようになりました。しかし、『植栽基盤』という用語は、昭和50年代半ばに住宅公団や道路公団で使われ始めた比較的新しい言葉です。そして、現在のような用語の定義は、建設省土木研究所(当時)と(社)日本造園建設業協会が1995年(平成7年)に共同で取りまとめた報告書の中ではじめて「植物が正常に生育できるような状態になっている地盤を植栽基盤と呼ぶ」と明記されました。

当社は、昭和50年代、造園緑化分野において土壌と植物の関係を科学的に把握する取り組みをいち早く始めました。研究・技術開発を進めるとともに、造園学会への論文発表、日本道路公団(現 NEXCO 3社)などの研究機関からの委託調査、それらの研究の成果を踏まえた現場へのフィードバックなどを通じてノウハウを蓄積しました。そして、これらの成果は長谷川式土壌調査器具類(土壌貫入計、大型検土杖、簡易現場透水試験器)や土壌改良材等の製品へと結実していきました。 今では、造園施工管理技士の試験にも長谷川式土壌調査器具のことが出題されるほどそれら調査器具はあたり前の道具になりました。しかし、かつては「硬い土壌では根が伸びられないのはわかる。だが、それをどのようにして客観的に把握するのか」ということだけでも大問題でした。

調査器具

土壌の大島の画像「植物が正常に生育できるような状態になっている地盤」を整備することの重要性は、早くから前向きな技術者たちは分かっていました。しかし、正常に生育できる状態とはどんな状態なのか。改良するといっても範囲や深さが分からなければどうにもならない。また、硬い土壌はダメだ、透水性が悪くてはダメだといわれてもそれをどのように調べて、判断基準をどのように決めればよいのか。それまでも農林業分野にはそれなりの知見がありましたが、あまりにフィールドや対象植物が異なる造園緑化分野には適合が困難でした。そして造園緑化分野には一切の手法も知見もないに等しい状況でした。

このような状況を切り開いてきたのが、当時企画開発室長の長谷川秀三でした。土壌の硬さを計測する器具としては既に、我が国には世界に誇る山中式土壌硬度計という道具がありました。しかし、山中式土壌硬度計は土壌断面を作成してはじめて有効になる道具であり、多くの現状を把握していくには大変でした。そこで長谷川は、土木分野で地盤調査に用いられていた貫入試験機に着目し、試行錯誤を繰り返した後、長谷川式土壌貫入計を開発し製品化につなげました。

簡易現場透水試験器については、その測定原理自体は決して特別の発明ではありませんでした。類似の手法は住宅公団ですでに使われていましたし、外国でも類似の手法や製品が紹介されていました。しかし、どれも簡易性・再現性等で問題がありました。そこで、ダブルスコップを用いて測る手法をある調査で使用したところかなり使える感触を得たため、傾斜地植栽地の調査でも利用できるような工夫を加えて測定器として完成させる試みが行われ、現在の簡易現場透水試験器へとつながりました。

判断基準値

今では植栽基盤に関するどんな本にも長谷川式土壌調査器具類とその判断基準値は掲載されていますが、それら判断基準も簡単に決まったわけではありませんでした。

土壌貫入計の場合、すでに判断基準値が示されていた山中式土壌硬度計での測定値との関係を求めました。目的とする土壌ごとに貫入計測定を行った箇所の直近で土壌断面を掘り、山中式で測定して両者の値を比較していったのです。この手法は、道路公団の調査にも引き継がれ、日本各地で多くのデータを得ることができました。また、後に香川大学の増田先生によってマサ土の関係式が得られました。これらはいずれも学会に報告し、学会の分科会でオーソライズされて官公庁等各所に利用されるようになりました。

一次標準器とでも言うべき山中式のような既存の測定器と判断基準値があるものについてはまだよかったのですが、それがない透水試験器はかなり困りました。また、貫入計にしても山中式との比較だけでは詰めが甘いと言わざるを得ませんでした。そこで、現実の緑化樹木生育との関係からそれを知ろうと考えました。すなわち各地の「良/普通/不良」生育の樹木の土壌状態を調べて、土壌硬度等がどの程度から不良になるのかということを調べました。この解析には、後に大島造園土木の技術顧問になっていただいた当時東京大学の(故)真下育久先生の指導を得て、多変量解析手法を利用しました。現在簡単な数値表にまとめられている長谷川式土壌調査器具の判断基準値も、実は相当な紆余曲折の結果で決められた数値なのです。

改良範囲

土壌の大島の画像植栽基盤には正常に生育できる範囲(深さ、広がり)が適正な土壌であることが必要です。もし不良な土壌であれば、その範囲を改良する必要があります。したがってこの範囲というのは「改良範囲」であるとも言えます。では、この改良範囲はどのように決められてきたのでしょうか。正確にいえば、植物の根の土壌に対する適応性の広さがあるため、この範囲設定は厳密なものではありませんが、単なるカンや経験だけでは費用がかかる土壌改良への投資根拠になりません。それなりの根拠が必要になります。

改良範囲というのは、根が正常に伸びられる範囲です。したがって、改良範囲を知るには根系の知見が必要になります。しかしかつては造園緑地の、そして造園緑化用樹木の根系特性などほとんど知られていませんでした。そんな中、当社が土壌の問題に熱心に取り組んでいることを知った建設省中部技術事務所(当時)の副所長さんからのお声掛かりで、昭和50年代の初頭から我が国最初の本格的街路樹土壌・根系調査に取り組みました。その後も多くの場所で土壌・根系調査を実施する機会があり、根系についてそれなりの知見を得ることができました。それら知見のいくつかは街路樹の根系の例として苅住曻博士の御著書「樹木根系図説」にも引用されていますが、数値化できるような知見を得るまでは発展しませんでした。

土壌の大島の画像改良範囲の数値化というテーマは、結論からいえば、日本道路公団(試験所)の調査研究において、既存方法から全く離れた形で取り組みました。数種の樹木の各数十本について、根系調査を行って樹心からの一定距離毎に根系の数値データを取得し、それを統計処理して、樹高に応じた樹心からの距離における根系の深さを求めました。したがって、目的とする樹高(将来樹高)を設定すれば数値的に改良深さと巾が求められるようになりました。それは膨大な調査結果に基づいて得られた値であったため、基盤改良工の会計検査等における説明根拠としても機能できるようなものになりました。


現在、植栽基盤整備の技術書として使用されている「植栽基盤整備ハンドブック」((一社)日本造園建設業協会 発行、平成17年)では、「植物の根が支障なく伸長して、水分や養分を吸収することのできる条件を備えており、ある程度以上の広がりがあり、植物を植栽するという目的に供される土層を植栽基盤という」と定義され、透水性や土壌硬度の調査手法として長谷川式土壌調査器具がその判定基準値とともに紹介されています。


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